横浜地方裁判所 平成9年(カ)4号 判決 1998年3月24日
本件再審の訴えは、現行民事訴訟法の施行前に提起された事件であるから、
平成八年法律第一〇九号による改正前の民事訴訟法(以下「旧民訴法」という。)の
適用を受けることとなる(附則二二条)。
横浜市旭区柏町五八番地の一
再審原告
河野禮通
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
再審被告
国
右代表者法務大臣
下稲葉耕吉
右指定代理人
小暮輝信
同
内田健文
同
池上照代
同
宇山聡
同
廣田隆男
同
上田幸穂
同
川上昌
主文
一 本件再審の訴えをいずれも却下する。
二 再審の訴訟費用は、再審原告の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 横浜地方裁判所が平成五年(ワ)第一三一六号損害賠償請求事件について、平成六年二月一日に言渡した判決を取り消す。
2 再審被告は、再審原告に対し、一〇九五万円及びこれに対する平成四年七月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
3 本案及び再審の訴訟費用は再審被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(主位的答弁)
1 本件再審の訴えのうち、旧民訴法四二〇条一項七号ないし九号に基づく再審の訴えを却下する。
2 その余の再審原告の再審請求を棄却する。
3 訴訟費用は再審原告の負担とする。
(予備的答弁)
1 再審原告の再審請求を棄却する
2 訴訟費用は再審原告の負担とする
第二当事者の主張
一 請求原因
1 横浜地方裁判所は、平成六年二月一日、再審原告が不法行為に基づく損害賠償を求めた平成五年(ワ)第一三一六号損害賠償請求事件(以下「前訴」という。)について請求棄却の判決(以下「原判決」という。)を言渡し、原判決は平成六年二月一六日に確定した。
2 再審被告は、平成五年一〇月一九日、前訴の口頭弁論期日において、「原告の平成二年分の還付金は平成三年分の原告が納付すべき所得税等に充当した」と虚偽の陳述をし、原判決は、再審被告の右陳述を証拠として「平成二年分の還付金を平成三年分の所得税等に充当した」と認定した。しかし、還付金が充当されたことはなく、再審被告により横領されたものである。
また、原判決は、保土ヶ谷税務署長が再審原告の土地取引は平成三年であるとして平成四年七月二九日付けでした平成三年分の所得税額等の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件決定」という。)を判決の基礎としているところ、国税不服審判所長は、平成七年一月一八日に、本件決定の一部を取り消すとの裁決(以下「本件裁決」という。)を行い、横浜地方裁判所は、再審原告が本件裁決の取消しなどを求めた平成七年(行ウ)第九号事件につき平成九年九月二四日に言渡した判決(以下「別訴判決」という。)において、再審原告の土地取引は平成二年度であると認定して原判決を否定した。これにより判決の基礎となった本件決定は後の裁判で別訴判決によって変更された。
したがって、旧民訴法四二〇条一項七号ないし一〇号所定の各再審事由が存在する。
二 被告の主張及び請求原因に対する認否
1 被告の主張
七号ないし九号に基づく再審原告の請求は、次のとおり、不適法な訴えである。
(一) 七号について
七号に基づく再審の訴えを提起するには、同条二項所定の事由の存在を要するところ、本件においては同条二項の所定の事由が存在しないから、不適法な訴えである。
(二) 八号について
八号の再審事由は、その変更が確定していることが必要であるところ、再審原告は、別訴判決を不服として控訴しており、別訴判決は確定していないから、不適法な訴えである。
(三) 九号について
判断遺脱の事由の存在は、判決の言渡しによって直ちに認識し得るものであるところ、再審原告は原判決を平成六年二月一日に送達を受け、原判決は確定しているから、再審期間を経過した不適法な訴えである。
2 請求原因に対する認否と反論
(一) 請求原因1は認める。
(二) 同2のうち、再審被告が前訴において再審原告の平成二年分の還付金は平成三年分の所得税等に充当したと主張し、原判決においてもその旨認定されていること、本件決定の取消しを求める再審原告の審査請求について平成七年一月一八日に本件決定の一部を取り消すとの本件裁決があったこと、平成九年九月二四日に別訴判決が言い渡されたことは認め、その余は否認ないし争う。
(三) 七号について
再審原告の主張は、訴訟代理人の主張と法廷代理人の陳述とを混同したものであり、主張自体失当である。
(四) 九号について
前訴において再審原告が主張した事実等について、原判決が判断を遺脱した事実は存在しない。
(五) 一〇号について
原判決と抵触する確定判決は存在しない。
第三当裁判所の判断
一 請求原因1については当事者間に争いがない。
二 そこで、再審原告の主張する各再審事由について判断する
1 七号所定の再審事由の主張について
七号所定の再審事由を主張するには、同条二項所定の事由の存在について主張、立証を要するところ、再審原告は、右の事由の存在について主張、立証をしていない。
したがって、七号所定の再審事由を理由とする本件再審の訴えについては不適法として却下を免れ得ないというべきである。
2 八号所定の再審事由の主張について
再審原告は、原判決の基礎となった本件決定が後の別訴判決により変更されたと主張する。
しかしながら、八号にいう裁判の変更は確定的かつ遡及的であることを要すると解されるところ、再審原告は別訴判決に全部不服があるとして直ちに控訴を提起したと主張しており、別訴判決は未だ確定していないから、別訴判決による本件決定の変更が確定されたとはいえない。
したがって、八号所定の再審事由を理由とする本件再審の訴えは不適法として却下を免れ得ないというべきである。
なお、証拠(乙三)によると、別訴判決が確定したとしてもこれにより本件決定が変更されるという関係にはなく、本件決定は本件裁決により変更されたものと認められる。
仮に再審原告が八号所定の再審事由として本件決定が本件裁決によって変更されたことを主張したとしても、本件裁決は遅くとも、その取消しを求めて別訴を提起した平成七年中には再審原告に告知されたと認められるから、再審期間の遵守を定めた旧民訴法四二四条に反し、不適法として却下すべきである。
3 九号所定の再審事由の主張について
再審原告の主張する九号所定の再審事由に該当する事実は明らかではないが、判断遺脱のような再審事由については、特別の事情のない限り、終局判決の正本送達により当事者は、これを知ったものと解されるところ、再審原告は、右特別の事情の存在について主張、立証をしていないから、再審原告は、原判決の正本送達の時に、判断遺脱の九号所定の再審事由の存在を知ったものと解すべきである。
別訴記録によると、原判決の正本は、平成六年二月一日に再審原告に送達され、再審原告は上訴を提起しないで原判決は同月一六日に確定したことが認められるから、同条一項ただし書により九号所定の再審事由を主張することは許されない。
したがって、九号所定の再審事由を理由とする本件再審の訴えは不適法として却下を免れ得ないというべきである。
4 一〇号所定の再審事由の主張について
再審原告の主張する一〇号所定の再審事由に該当する事実は明らかではないが、本件記録上、原判決が前に確定した判決と抵触することを認めるに足る証拠は存在しない。
したがって、一〇号所定の再審事由を理由とする本件再審の訴えは不適法として却下を免れ得ないというべきである。
三 以上の事実によれば、本件再審の訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、再審費用の負担につき、旧民訴法四二三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 日野忠和 裁判官 安井省三 裁判官 橋本修)